AI推進担当・推進室の役割は、社内のユースケース発掘、PoCから本番運用への移行設計、経営と現場の橋渡しという3つの機能に集約されます。何を専任化し、誰と連携し、最初にどの壁にぶつかるかを整理します。

AI推進担当・推進室が担う役割とは何か

AI推進担当の役割は、ツールを配って終わりにするのではなく、業務に定着するところまでを設計し続けることです。具体的な職務は次の3つに分解できます。

  • 社内のどの業務にAIを適用できるか、ユースケースを発掘し優先順位をつける
  • 小規模な試行(PoC)の結果を評価し、本番運用に移すかどうかを判断する
  • 現場の実感と経営が求める成果指標の両方を理解し、両者の間で説明を橋渡しする

この3つのうち、最も抜け落ちやすいのが2番目です。試行だけを繰り返して本番化の判断基準がないまま止まる状態は珍しくなく、推進担当がいなければPoCは個人の善意に依存したまま終わります。自社でAI人材を育てる場合も、この役割を誰が担うかを最初に決めることが出発点になり、詳しくは自社でAI人材を育てる、最初の一歩で扱っています。

何人体制で始め、誰と連携するか

体制の作り方に唯一の正解はありませんが、最初から大きな推進室を作る必要はなく、まずは1〜2名の兼任体制で始めて構いません。重要なのは人数よりも、次の3点を最初に確保できているかです。

  • 経営層のスポンサーが1人いるか(予算判断と部門間調整の後ろ盾になる)
  • 情シスとの定例の接点があるか(利用範囲の統制を後追いにしない)
  • 対象部門の業務プロセスを説明できる人が推進側にいるか

規模が大きくなり、複数のPoCが並走し始めると、調整業務だけで稼働が埋まるため、その段階で専任化や推進室への格上げを検討します。体制ができたあとの標準的な進め方は導入の標準ステップで解説しています。

最初にぶつかる壁とその突破口

推進担当が最初に直面するのは、技術的な難しさではなく、現場の抵抗と社内の統制の板挟みです。典型的な壁は次の3つです。

具体的な状態突破口
現場の抵抗「業務が変わるのが面倒」という反応小さな成功事例を1つ作り、当事者に語らせる
シャドーAI未許可のツールが個人利用で広がっている利用実態を調査し、禁止一辺倒でなく代替の許可ツールを示す
PoC止まり試行だけ繰り返し本番化の判断が出ない本番化の基準(工数削減量や継続利用率など)を試行前に決めておく

この表からわかるのは、壁の多くが技術ではなく合意形成の問題だという点です。特にPoC止まりは、判断基準を試行後ではなく試行前に決めておくかどうかで結果が変わります。基準を先に決めておけば、経営への説明も「試行の結果、基準を満たしたので本番化する」という順序で語れます。

外部リソースの使い分けと経営への説明

推進担当は全てを内製で抱える必要はなく、知識付与は研修、実行の伴走はコンサル、日常利用はツールという役割分担で外部を使い分けます。

目的外部リソース費用感の目安
知識をゼロから付与するリテラシー研修15〜40万円/回
実務に落とし込む演習を行う実務実装ワークショップ30〜60万円/部門
継続的に実行を支援してもらう月額顧問型コンサル月10〜50万円(最低3〜6ヶ月)
導入から本番化まで伴走してもらう導入伴走型コンサル月30〜150万円(継続6〜12ヶ月)
日常業務で使わせるAIツールのID配布月数千〜数万円/ID+初期費用

金額の大小より、推進担当が「今どの段階で何を外部に求めているか」を明確にすることが選定の軸になります。また、ツールを全社配布しても利用率が3〜4割で頭打ちになるのは典型的な傾向であり、成果の7〜8割は人・プロセス側で決まるとされています。この事実を踏まえると、経営への報告も「IDを何人に配布したか」ではなく「実際に業務が変わった件数」で語るほうが説得力を持ちます。定着を継続させるための具体的な施策は研修後の定着施策にまとめています。自社の状況から研修とコンサルのどちらを優先すべきか迷う場合は、目的を選んで数問答えるだけの判定を使うと、次の一手が整理しやすくなります。