「まず自社の業務でどう使えるか、ユースケースを洗い出しましょう」——生成AI活用の解説は判で押したようにこう言いますが、その洗い出しのやり方自体は、なぜかあまり説明されません。結果、推進担当が「活用事例100選」のような記事を眺めて、自社に当てはまりそうなものを探す——うまくいかない典型です。
先に要点を言うと、ユースケースは事例集から探すのではなく、自社の業務から掘るものです。他社事例は「AIに何ができるか」の辞書としては有効ですが、定着するユースケースの条件は「AIができること」ではなく「自社のその業務で、その人たちが、続けられること」だからです。この記事では、掘り方と絞り方の実務手順を解説します。
手順の全体像
- 1対象部門を1つ決める
- 2業務を書き出す(棚卸し)
- 3AI向きの業務に印を付ける
- 4最初の3つに絞る
- 5型を作って試す
ポイントは、全社を一度にやらないことです。部門を絞れば棚卸しは半日で終わり、絞らなければ永遠に終わりません。最初の部門の選び方は生成AIの社内展開の進め方で解説している通り、成功が伝播しやすい部門が第一候補です。
業務棚卸しの簡易なやり方
重厚な業務分析は不要です。対象部門のメンバー2〜3名に集まってもらい、次の2つの軸で普段の業務を書き出します。
- 繰り返しの頻度——毎日・毎週やっている業務か、たまにしかない業務か
- 文章・情報の加工度——読む・書く・要約する・調べる・変換する、が含まれる業務か
この2軸で「頻度が高く、文章・情報の加工を含む業務」を挙げていくと、候補は自然に20〜30個出てきます。ここで大事なのは、業務名(「営業事務」)ではなく工程名(「受注後の注文内容の確認メール作成」)の粒度まで割ることです。ユースケースは業務ではなく工程に宿ります。
AI向きの業務を見分ける4条件
出てきた候補に、次の4条件で印を付けます。
- 入力がテキストや定型情報である(紙・口頭・暗黙知が入口の工程は後回し)
- 「正解の幅」がある(一言一句の正確さより、たたき台の速さが価値になる)
- 人が最終確認する前提を置ける(生成物をそのまま外に出さない工程)
- 担当者自身が「面倒だ」と感じている
4つ目は技術条件ではありませんが、定着には最も効きます。担当者が楽になりたい工程は、ツールの使い方を自分から覚えます。逆に、本人が価値を感じている工程(こだわりのある提案の核心部分など)をAIに置き換える提案は、正しくても抵抗に遭います。ここを外すと、ツールは配ったのに使われないという結果になります(その構造は生成AIを導入したのに社内で使われない――定着しない5つの原因と対処の順番で解説しています)。
「最初の3つ」に絞る基準
印が付いた候補から、最初に取り組む3つを選びます。基準は次の順です。
| 優先基準 | 理由 |
|---|---|
| 1. 対象者が多い工程 | 部門の大半が関わる工程なら、型1つで全員に成功体験を配れる |
| 2. 効果が観測しやすい工程 | 時間・件数の変化が見える工程は、後の効果測定と経営報告に使える |
| 3. 失敗しても顧客に影響しない工程 | 社内向け・下書き段階の工程なら、品質の揺らぎを許容して試せる |
3つに絞る理由は集中です。5個10個を同時に始めると、型作りもフォローも薄まり、どれも中途半端に終わります。3つで成功体験と型ができれば、4つ目以降は現場から「この業務でも使えないか」と挙がってくるようになり、推進の重心が「押す」から「捌く」に変わります。ここまで来れば、展開は軌道に乗っています。
絞った3つの効果をどう測るかは、着手前に決めておいてください(AI活用の効果測定のやり方を参照)。ビフォーの記録は、この段階でしか取れません。
部門ヒアリングの質問例
棚卸しの場で使える質問を挙げておきます。「AIで何がしたいですか」と聞いても答えは出ません。業務の実態を聞いてください。
- 「毎週必ずやっている作業で、一番時間を取られているものは何ですか」
- 「誰かに下書きを作ってもらえたら助かる文書はありますか」
- 「読むのに時間がかかる資料・メール・議事録はどれですか」
- 「新人に教えるのが大変な作業は何ですか」(型化しやすい工程のサインです)