経理部門で生成AIが注目される理由

経理業務は、請求書処理、仕訳入力、稟議書の確認、規程の照会など、フォーマットが決まった定型作業が多くあります。定型作業が多いということは、生成AIが得意とする「型のある文章を下書きする」処理と相性が良いということでもあります。摘要文の作成や報告書の要約など、これまで担当者が都度考えていた文章の下書きをAIに任せることで、確認と判断に時間を割けるようになります。

定型業務が多く、効果を実感しやすい

仕訳の摘要作成、稟議書の要約、社内規程の照会は、いずれも「元になる情報」が明確で、アウトプットの形式もある程度決まっています。こうした業務は生成AIの得意領域と重なりやすく、営業部門の提案書作成などと同様に、比較的早い段階で使い方のイメージが持てる業務といえます。関連する取り組み方は営業部門の生成AI活用――商談準備・提案書・議事録と教育の順番でも扱っていますので、他部門の活用順序と比べてみると自部門の優先順位を検討しやすくなります。

一方で数値・機密情報の扱いに慎重さが求められる

経理部門が扱う情報には、取引先の契約条件、従業員の給与、未公開の決算数値など、外部に漏れてはいけない情報が多く含まれます。生成AIを業務に組み込む際は、「何をAIに入力してよいか」という線引きを最初に決めておかないと、便利さを優先するあまり機密情報を入力してしまうリスクがあります。この線引きの設計こそが、経理部門での生成AI活用における最大の論点です。

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経理業務における生成AI活用の具体例

経理部門での生成AI活用は、大きく「文章の下書き」「情報の要約」「規程・ルールの照会」「一次チェックの補助」の4つに整理できます。いずれも最終的な判断は人が行うことを前提に、AIは下書きや候補の提示までを担う位置づけです。

仕訳の説明・摘要文の下書き

取引内容を伝えると、勘定科目や摘要文の候補をAIに複数提示させることができます。担当者が毎回文言を考える手間を減らせる一方、勘定科目や税区分の妥当性、金額の正確性は必ず人が確認する必要があります。AIが提示するのはあくまで「候補」であり、会計処理としての正しさを保証するものではありません。

稟議書・報告書の要約

長文の稟議書や経緯資料を要点に整理させることも代表的な使い方です。決裁者が短時間で内容を把握できるようにする効果がある一方、数値の転記ミスや、意思決定に関わる重要な文脈が要約の過程で欠落していないかを、提出前に人の目で確認する工程が欠かせません。

社内規程・経理ルールの照会

経理規程や経費精算ルールをAIに読み込ませておき、質問に答えさせる使い方も広がっています。新人担当者からの問い合わせ対応の負担軽減につながりますが、規程が改定された際にAIが参照している文書が最新版かどうかを常に確認しておく必要があります。古い規程を根拠に回答してしまうと、かえって誤りを広げることになります。

請求書・証憑の一次チェック補助

請求書や証憑の記載項目に抜け漏れや形式的な不備がないかを、AIに一次チェックさせる使い方もあります。ただし、これは形式面のチェックに留まり、取引の実態との整合性や不正の兆候を見抜くところまでは人の判断が必要になります。

活用例AIが担う部分人が必ず確認する部分
仕訳の摘要文作成取引内容から摘要文の候補を複数提示勘定科目・金額・税区分の妥当性
稟議書・報告書の要約長文の稟議や経緯を要点に整理数値の転記ミス、意思決定に関わる文脈の欠落
社内規程・経理ルールの照会規程文書を根拠に質問へ回答参照している規程が最新版か、例外事項の有無
請求書・証憑の一次チェック記載項目の抜け漏れや形式の不備を指摘実際の取引実態との整合性、不正の兆候

業務のどこにAIを使うべきかをまだ絞りきれていない場合は、生成AIのユースケースの見つけ方――業務棚卸しから3つに絞るを参考に、自部門の業務を棚卸しするところから始めるとよいでしょう。

経理部門で生成AIに入れてはいけない情報

経理部門が生成AIを活用するうえで最も重要なのは、「便利だから」という理由だけで機密情報を入力しないことです。特に外部の生成AIサービスを利用する場合、入力した情報がどのように保持・学習利用されるかはサービスごとに異なるため、事前の確認が欠かせません。

個人情報・取引先の機密情報

従業員の給与明細、住所などの個人情報、取引先との契約条件や単価といった機密情報は、外部AIへの入力を避けるべき代表例です。これらの情報が意図せず保持されたり、別の文脈で参照されたりするリスクを避けるためには、入力前に個人・取引先を特定できる情報を伏せる、あるいは社内で完結するツールを使うといった対応が必要になります。

未公開の決算数値・M&A関連情報

未発表の決算速報や、進行中のM&A・買収交渉に関する情報は、いわゆるインサイダー情報に該当しえます。こうした情報を外部の生成AIサービスに入力することは、情報漏洩のリスクだけでなく、法的な問題に発展する可能性もあるため、原則として入力対象から外すべき情報です。

銀行口座・パスワード等の認証情報

銀行口座番号、各種システムのパスワード、APIキーといった認証情報は、生成AIに限らずどのようなツールにも入力すべきではない情報です。経理部門は決済や送金に関わる業務が多いため、こうした情報を誤って入力しないよう、日頃から意識づけをしておく必要があります。

生成AIに入力する前に確認すること
  • 取引先や従業員を特定できる情報が含まれていないか
  • 未公開の決算・M&A情報が含まれていないか
  • 口座番号・パスワード等の認証情報が含まれていないか
  • 利用しているAIサービスの入力データの扱い(保持・学習利用の有無)を確認したか

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安全に使うための線引きの作り方

入れてはいけない情報を担当者個人の判断に委ねるのではなく、部門としてのルールに落とし込むことが、安全な活用の第一歩になります。

社内ガイドラインで「入れていい/悪い」を明文化する

口頭での注意喚起だけでは、担当者ごとに判断がぶれてしまいます。経理部門特有の禁止事項(個人情報、未公開決算数値、認証情報など)を明文化したガイドラインを整備し、誰でも同じ基準で判断できるようにしておくことが望ましいです。全社共通のガイドラインの作り方は生成AIガイドラインの作り方――必須項目と禁止だらけの回避や、そのままの雛形を使える生成AIガイドラインのひな形――全7条をそのまま使うが参考になります。

ツールごとのログ保持・学習利用設定を確認する

生成AIサービスによって、入力データがモデルの学習に利用されるかどうか、ログをどの程度の期間保持するかは異なります。契約プランによって設定が変わる場合もあるため、経理部門で利用するツールについては、情報システム部門とも連携しながら設定内容を事前に確認しておく必要があります。より広いセキュリティ論点は生成AIのセキュリティリスクと対策――情シスの論点整理で整理しています。

権限管理とアカウント運用

誰がどのAIツールにアクセスできるか、退職・異動時にアカウントをどう扱うかといった権限管理も、経理部門では特に重要になります。決算や送金に関わる情報を扱う部門だからこそ、利用者の範囲を限定し、アクセスログを追える状態にしておくことが望ましいです。

経理担当者に必要なAIリテラシーとは

生成AIを安全かつ効果的に使うためには、ツールの操作方法だけでなく、AIの出力の性質を理解しておくことが欠かせません。

プロンプトの基本と検証する習慣

何を、どんな形式で、どこまで詳しく出してほしいかを具体的に指示することで、AIの出力の質は大きく変わります。経理業務では、勘定科目や金額など間違いが許されない情報を扱うため、指示を出す際に「確認が必要な箇所を明示させる」といった工夫も有効です。

AIの出力を鵜呑みにしない確認フロー

生成AIは、もっともらしい誤りを含む出力をすることがあります。経理部門では特に、AIが提示した勘定科目や金額、規程の解釈をそのまま採用せず、必ず人が確認するフローを業務手順として組み込んでおく必要があります。この確認フローを研修の中でどう教えるかについては、管理職向けAI研修は必要か――現場とは学ぶべきことが違うも参考になります。

経理部門でのAI導入の型と相場

経理部門で生成AIを導入する際の進め方は、大きく4つの型に整理できます。どの型が合うかは、部門のAIリテラシーの現状と、どこまで内製で広げたいかによって変わります。数値は2026年時点の複数の公開ソースに基づく参考値であり、実際の見積もりは各社に確認が必要です。

要点相場(2026年時点の参考値)
AI研修型まず経理担当者のAIリテラシーを底上げするリテラシー研修 15〜40万円/回、実務実装ワークショップ 30〜60万円/部門
ハイブリッド型(研修+定着支援)研修後の利用率まで伴走してもらう内製化・定着伴走 月20〜50万円
ツール導入型現場でツールを使いながら自走する月 数千〜数万円/ユーザー + 初期設定費
内製推進型社内に推進者を立てて内製で広げる月 数千〜数万円/ツール + 社内推進の工数

リテラシー研修から始める型

経理部門でまだ生成AIをほとんど使ったことがない場合は、まずリテラシー研修で「何ができて、何をしてはいけないか」を全員で共有するところから始めるのが基本になります。研修だけで終わらせず、自部門の実業務に近い演習が組み込まれているかを確認しておきましょう。研修形式ごとの費用感はAI研修の費用相場【2026年版】形式×人数の早見表で整理しています。

研修+定着支援のハイブリッド型

研修を実施しても、その後のフォローがなければ利用率は下がりやすくなります。研修と、現場での詰まりを解消する伴走をセットにしたハイブリッド型は、研修単体よりも成果が残りやすく、コンサル型よりも費用を抑えられる中間的な選択肢です。

ツール導入型で現場から自走する

すでに一部の担当者が独自に生成AIを使いこなしている場合は、ツールを正式に導入し、その使い方をチーム内で共有・標準化する進め方も有効です。ただし、ツールを配布するだけでは属人化した使い方は共有されないため、ガイドラインやプロンプトの共有をセットにしておく必要があります。

導入を進める際の確認事項とよくある売り文句

どの型を選ぶ場合でも、契約前に確認しておくべき事項は共通しています。特に経理部門は機密情報を扱うため、一般的な研修・ツール導入以上に確認項目が増えます。

契約前に確認すべきこと

研修後の定着支援があるか、自社の実業務に近い演習が組み込めるか、講師や担当者が経理実務の経験を持っているか、そして業務データの扱い方が明確になっているかを、契約前に確認しておきましょう。曖昧なまま契約を進めると、汎用的な内容にとどまり、経理部門特有の論点(機密情報の線引きなど)が抜け落ちるリスクがあります。

その場で確かめるべき問い

「生成AIで生産性が上がります」という説明を受けたときは、具体的にどの業務で、どの程度の工数が削減できたのかを確認してください。「豊富な導入実績があります」という説明に対しては、同じ規模・同じ業種、できれば経理部門での実績かどうかを尋ねるとよいでしょう。汎用的な説明だけで終わる場合は、自社の経理業務に即した提案になっていない可能性があります。

稟議を通す段階での書き方はAI導入の稟議書テンプレート――通る書き方と撤退条件にまとめています。経理部門は決裁のプロセスにも慣れているため、撤退条件まで含めた稟議設計と相性がよいといえます。

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定着させるための運用設計

研修やツールを導入して終わりにせず、定着まで見届ける運用設計が、経理部門でのAI活用を成果につなげる鍵になります。

効果測定の指標を決める

「なんとなく便利になった」で終わらせず、どの業務で、どれだけの工数が削減できたかを定期的に振り返る仕組みを作っておきましょう。削減できた工数に時給を掛け合わせることで、投資対効果を概算できます。効果測定の具体的な進め方はAI活用の効果測定のやり方――「なんとなく便利」で終えないで扱っています。

推進担当を立てる

経理部門内に、生成AIの使い方や疑問点を集約する推進担当を置くことで、現場の詰まりを都度ほどきやすくなります。推進担当がゼロから何をすべきか迷う場合は、AI推進担当に任命されたら――最初の90日でやることが参考になります。属人化した「うまい使い方」を共有・蓄積する仕組みを合わせて用意しておくと、部門全体への定着が進みやすくなります。

まとめ――経理部門の生成AI活用を始める前に

経理部門での生成AI活用は、仕訳の摘要作成、稟議書の要約、規程の照会といった定型業務との相性がよい一方、個人情報や未公開の決算数値、認証情報など、入力してはいけない情報が他部門より多いという特徴があります。まずは「何を入力してよいか」の線引きをガイドラインとして明文化し、そのうえでリテラシー研修やツール導入を進めるという順番を意識しておきたいところです。

どの型から始めるべきかは、部門のAIリテラシーの現状や、社内にどれだけ推進の余力があるかによって変わります。自社の状況に近い型を客観的に把握したい場合は、AI判定サービスFitsel AIの無料判定を活用することもひとつの方法です。