人材開発支援助成金を使ってAI・DX関連の研修を実施しようとしたとき、「計画届は書いたのに、もう一枚DX関連の申立書が必要と言われた」という声は少なくありません。書類の役割が違うため、内容を混ぜて作成すると差し戻しの原因になります。まずは申立書がどんな性質の書類かを整理しましょう。

人材開発支援助成金「DX推進申立書」とは何か

事業主によるDX推進申立書は、訓練そのものの実施計画を届け出る書類ではなく、「自社がDXをどのように推進しようとしているか」という事業主側の方針・体制を申し立てる書類です。訓練の対象者・時間数・カリキュラムを記載する計画届とは、記載する主語が異なると考えると整理しやすくなります。

様式第3-2号としての位置づけ

実務上、この申立書は様式第3-2号として扱われることが多く、高度デジタル人材訓練や成長分野等人材訓練など、DXに関連する訓練メニューを利用する場合に添付が求められます。すべての訓練メニューで必要になるわけではないため、自社が利用しようとしている訓練区分でこの申立書が必須かどうかは、事前に管轄の労働局やご担当の社会保険労務士に確認することをおすすめします。

計画届(様式第1-1号)との違い

計画届は「誰に・いつ・どのくらいの時間・どんな内容の訓練を行うか」という訓練実施計画そのものを記載する書類です。一方、DX推進申立書は「その訓練が自社のDX推進方針とどうつながっているか」という経営側の説明を記載する書類で、性格がまったく異なります。計画届の書き方については人材開発支援助成金の計画届の書き方で詳しく解説していますので、両方を用意する必要がある場合はあわせて確認しておくと、記載内容の整合を取りやすくなります。

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申立書の提出が必要になる場面

DX推進申立書は、対象となる訓練メニューを利用する事業主すべてに一律で求められるものではありません。どのようなケースで提出が必要になるかを押さえておくと、書類準備の抜け漏れを防げます。

高度デジタル人材訓練を利用するケース

高度なプログラミングやデータ分析、AI活用など、デジタル領域の専門性が高い訓練を利用する場合には、自社がその訓練成果をDX推進にどう活かすつもりかを申し立てる書類として位置づけられることが一般的です。訓練内容と自社の事業計画のつながりが説明できることが前提になります。

成長分野等人材訓練との関係

成長分野に関連する訓練区分でも、DXとの関連性が審査の観点になる場合があります。どの訓練区分にDX推進申立書が求められるかは制度改定で変わることがあるため、最新の要領で対象範囲を都度確認する姿勢が欠かせません。

申立書に書く主な項目

申立書には、自社のDX推進の考え方と、それを訓練とどう結びつけているかを説明する項目が並びます。ここでは一般的に求められる記載の方向性を整理します。

自社のDX推進方針・体制

まず、自社がなぜDXに取り組むのか、どの部署・誰が推進役を担うのかといった方針・体制を記載します。抽象的なスローガンだけでなく、「どの業務を」「どう変えたいのか」を具体的に書けるかどうかがポイントです。

訓練内容とDX推進のつながり

次に、今回申請する訓練が、その方針の中でどんな役割を果たすのかを記載します。訓練で得たスキルをどの業務にどう適用するのかまで書けていると、申立書としての説得力が増します。

数値目標や指標の書き方

削減できる工数や成果を数値で示せると説得力が高まりますが、根拠のない数字を書くのは避けるべきです。まずは「どの業務を」「どのくらいの頻度で」「誰が」担うのかという定性的な記載を固め、社内で実際に把握している事実の範囲で数値を添える、という順番で進めるのが安全です。

記入例を作る前に整理しておきたいこと

記入例をそのまま流用しても、自社の実態と合っていなければ差し戻しの対象になります。書き始める前に、社内で次の3点を整理しておくと迷いが減ります。

経営計画・DX推進計画書との整合

中期経営計画やDX推進計画書がすでに社内にある場合は、その記載と申立書の内容がズレないようにします。逆に、そうした計画書がまだない場合は、申立書の作成をきっかけに簡易版の方針を整理しておくと、今後の助成金申請や社内説明にも使い回せます。

訓練カリキュラムとの対応表

研修会社から提示されたカリキュラムの各項目が、自社のどの業務課題に対応するのかを一覧化しておくと、申立書の「訓練内容とDX推進のつながり」欄を書きやすくなります。研修のカリキュラム構成そのものを比較検討したい場合は、AI研修のカリキュラム比較も参考になります。

記入・押印の担当者

申立書は経営層の方針を代弁する書類であるため、労務担当者だけで完結させず、事業計画に責任を持つ立場の人が内容を確認・押印する体制にしておくことが望まれます。

記入前に確認しておきたい3項目
  • DX推進方針が社内で言語化されているか
  • 訓練カリキュラムと自社業務の対応関係を説明できるか
  • 計画届など他の提出書類と記載内容が矛盾していないか

よくある差し戻し・不備のパターン

申立書は自由記述の割合が多いため、書き方次第で審査側の受け止め方が変わります。ここでは、差し戻されやすい典型的なパターンを整理します。

抽象的な記述に終始してしまう

「DXを推進し生産性を向上させる」といった一般論だけで終わり、自社のどの業務をどう変えるのかが書かれていないケースです。読み手が具体的な業務イメージを持てるかどうかを基準に、記述の粒度を見直すことが有効です。

訓練内容とDXの関連説明が不足する

訓練カリキュラムの紹介にとどまり、それが自社のDX推進とどうつながるのかの説明が薄いケースも見られます。カリキュラムの各要素と自社課題を結びつける一文を、項目ごとに添えることを意識しましょう。

計画届の記載内容とズレが生じる

計画届に書いた訓練時間数や対象者と、申立書側の記述が食い違っていると、書類全体の整合性を疑われます。両方の書類を同じ担当者、あるいは同じチェックリストで最終確認する運用にしておくと防ぎやすくなります。

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申立書の作成を、誰が担うか

申立書の作成は、自社の労務担当者がゼロから対応する方法、社会保険労務士など専門家に依頼する方法、研修会社・コンサルの伴走を活用する方法の大きく3通りに分かれます。それぞれに向き・不向きがあります。

自社の労務担当がゼロから作成する場合

過去に助成金申請の経験があり、自社のDX方針も社内で言語化できている場合は、自社作成でも十分対応できます。ただし、初めて対応する場合は様式の解釈や必要書類の判断に時間がかかりやすい点に注意が必要です。

社会保険労務士など専門家に依頼する場合

助成金申請の実務に慣れた専門家に依頼すると、様式の解釈や他の必要書類との整合確認を任せられます。ただし、自社のDX方針や訓練とのつながりという「中身」までは専門家任せにできないため、社内での方針整理は自社で行う前提になります。

研修会社・コンサルの伴走を活用する場合

訓練カリキュラムを提供する研修会社やAI導入コンサルの中には、助成金活用を前提にカリキュラム設計や申立書作成の材料整理まで伴走してくれるところもあります。訓練内容と申立書の記述を同時に整合させられる点がメリットですが、特定ベンダーの訓練内容に寄せた記述にならないよう、自社の実態を優先する姿勢は保つ必要があります。

依頼先向いているケース注意したい点
自社の労務担当助成金申請の経験があり、DX方針が社内で言語化済み初回対応は様式解釈に時間がかかりやすい
社会保険労務士様式解釈や書類全体の整合確認を任せたいDX方針の中身は自社整理が前提
研修会社・コンサル伴走訓練内容と申立書の記述を同時に整えたい自社の実態より提案内容が先行しないよう確認

※上記は一般的な役割分担の整理であり、実際の依頼可否・費用は各社・各専門家にご確認ください。

申立書とAI・DX研修選びのつながり

DX推進申立書は、単なる提出書類ではなく、「どの研修を選ぶか」という意思決定と表裏一体の書類です。書類のための研修選びにならないよう、順番を意識しておくことが大切です。

対象となる訓練の要件を満たすカリキュラムか確認する

研修会社を選ぶ段階で、その訓練が人材開発支援助成金の対象メニューに該当するか、DX推進申立書の添付が必要な区分かどうかを事前に確認しておくと、後工程での書類不備を防げます。生成AI研修と助成金の対象コース・必要書類の関係は、人材開発支援助成金×生成AI研修で整理しています。

研修内容と申立書の記述を連動させる

研修のシラバスや到達目標がはっきりしていると、申立書の「訓練内容とDX推進のつながり」欄をそのまま具体化できます。逆に、研修内容が汎用的なスライドの紹介に終始していると、申立書側の説明も抽象的にならざるを得ません。研修選びの段階で、自社業務に即した演習が組み込まれているかを確認しておくことは、書類作成の負担軽減にも直結します。

申立書提出後に気をつけたいこと

申立書は提出して終わりではなく、その後の運用・報告段階でも整合性が問われ続けます。

計画変更が生じた場合の扱い

訓練内容や体制に変更が生じた場合、計画届側では変更届の提出が必要になることがあります。変更届の期限や様式の扱いについては人材開発支援助成金の変更届はいつまで?で解説していますので、申立書の内容に影響する変更が生じた際は、あわせて確認しておくと安心です。

実施結果報告書との整合性

訓練終了後に提出する実施結果報告書は、計画届・申立書の内容と整合していることが前提になります。申立書に書いた「DX推進とのつながり」が、報告書段階でも一貫して説明できるよう、訓練実施中の記録を残しておくことをおすすめします。実施結果報告書の記入例は人材開発支援助成金の実施結果報告書で確認できます。

まとめ:DX推進申立書を通すための3つの視点

第一に、計画届とDX推進申立書は書類の性格が異なるため、記載内容を混同しないことです。第二に、抽象的なスローガンではなく、自社の業務課題と訓練内容の対応関係を具体的に書くことです。第三に、自社作成・専門家依頼・研修会社の伴走のいずれを選ぶ場合も、DX方針の中身だけは自社で整理しておく必要があるということです。書類の細部にとらわれる前に、自社がどんな型でAI・DXを推進したいのかを整理しておくと、申立書の記述もぶれにくくなります。