事業展開等リスキリング支援コースとは

事業展開等リスキリング支援コースは、人材開発支援助成金の中に設けられているコースのひとつで、企業が新たな事業展開等に伴い従業員のスキルを更新(リスキリング)する訓練を行う際に活用されるものです。単なる業務改善のための研修ではなく、「事業のかたちが変わる」ことと「その変化に必要な訓練」がセットになっている点が、他のコースとの大きな違いです。

AI・DXの文脈でこのコースが注目される理由は、生成AIやデータ活用による新規事業への進出、既存事業のデジタル化による業態転換などが「事業展開等」として認められる可能性があるためです。ただし、AI活用そのものが自動的に対象になるわけではなく、事業展開等の実態と訓練内容が明確に結びついていることが前提になります。

制度の位置づけ(人材開発支援助成金の中で)

人材開発支援助成金には複数のコースがあり、それぞれ対象となる訓練の性質が異なります。事業展開等リスキリング支援コースは、その名の通り「事業展開等」を伴うことが要件になっている点で、通常の研修支援を目的としたコースとは申請書類の構成も異なります。計画届の書き方については人材開発支援助成金の計画届の書き方でも整理していますが、本コースでは計画届に加えて事業展開等実施計画(様式第2号)の提出が求められる点を押さえておく必要があります。

対象となる「事業展開等」の範囲

事業展開等として想定される内容は、新しい分野への進出、新製品・新サービスの開発、既存事業のやり方を大きく変える業態の転換など、企業の事業活動そのものに変化をもたらすものです。AI・DXに関して言えば、これまで人手で行っていた業務をAIで代替する体制へ移行する、AIを組み込んだ新サービスを立ち上げる、といった動きが該当し得ます。

ただし、どこまでが「事業展開等」に該当するかの線引きは制度の要件によって定められており、単に「便利なツールを導入した」というレベルでは事業展開等として認められにくい点に注意が必要です。この判断に迷う場合は、申請前に管轄の窓口や専門家へ確認する工程を省略しないことが重要です。

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様式第2号(事業展開等実施計画)の基本構成

様式第2号は、事業展開等の内容と、それに伴い従業員に新たに習得させる知識・技能、そして実施する訓練の関係を一つの書類の中で説明するものです。書類の項目自体はシンプルですが、各項目に書く内容の「つながり」が審査で見られるため、項目ごとに独立して書くのではなく、全体を通してストーリーが成立しているかを意識する必要があります。

記載が求められる項目一覧

一般的に、様式第2号では次のような項目の記載が求められます。事業展開等の具体的な内容、その事業展開等が必要となる背景、事業展開等に伴い新たに必要となる知識・技能の内容、そしてその知識・技能を習得するための訓練計画との関連性です。これらはすべて独立した項目ではなく、前段の内容が後段の根拠になるように書く構成が基本になります。

他の提出書類との違い(計画届・支給要件確認申立書等)

計画届は「いつ、どんな訓練を、誰に対して行うか」という訓練の実施計画そのものを示す書類です。一方で様式第2号は「なぜその訓練が必要なのか」という事業側の背景を説明する書類であり、両者は補完関係にあります。支給要件確認申立書のように役員等の情報整合を確認する書類(支給要件確認申立書の書き方を参照)とも記載内容に矛盾がないよう、提出前にすべての書類を横断して確認することが欠かせません。

AI・DXへの事業転換をどう記述するか

AI・DXへの取り組みを事業展開等として記載する際、最も注意すべきなのは「AIを導入します」だけで終わらせないことです。審査で見られているのは、AI導入という手段ではなく、それによって事業のどこがどう変わるのかという事業展開等の実態です。

「新たな分野への進出」として書く場合

これまで手掛けていなかった事業領域にAIを活用して進出する場合は、進出先の事業領域を具体的に特定し、その事業を成立させるために自社に不足している知識・技能を明確にする書き方が有効です。たとえば、これまで受託制作のみだった事業者が、生成AIを活用した自社サービス型の事業へ広げる場合、必要になるのはAIツールの操作方法だけでなく、サービス設計や運用に関する知識・技能である、という書き方に整理できます。

「デジタル技術の活用による生産性向上」として書く場合

既存事業のやり方そのものをAI活用によって大きく変える場合は、変化前と変化後の業務のあり方を対比させて書くとつながりが伝わりやすくなります。たとえば、属人的に行っていた業務の一部をAIを前提とした業務フローに置き換える場合、それに伴って従業員に必要となる知識・技能(AIの出力を検証する力、プロンプトの設計力など)を具体的に挙げる書き方が求められます。

抽象的な表現が認められにくい理由

「AI活用で業務効率化を図る」といった抽象的な表現だけでは、審査する側は何がどう変わるのか判断できません。事業展開等実施計画は、事業の変化と訓練の必要性を第三者が読んでも納得できる形で説明する書類であるため、具体性を欠いた表現は差し戻しや確認の連絡につながりやすくなります。

記載項目ごとの書き方のポイント

事業展開等の具体的内容

この項目では、抽象的な方針ではなく、実際に何を始める・何を変えるのかを具体的に書きます。対象となる商品・サービス、対象となる業務範囲、実施時期の見込みなど、読み手が事業の変化を具体的にイメージできる情報を盛り込むことが基本です。

新たに必要となる知識・技能の特定

事業展開等の内容が決まったら、それを実現するために従業員に新しく必要となる知識・技能を洗い出します。ここで重要なのは、既存業務の延長で身につく程度のスキルではなく、事業展開等に伴って新たに必要となるものであることを示すことです。AI関連であれば、AIツールの基本操作にとどまらず、業務への組み込み方や出力の検証方法まで踏み込んで書けると説得力が増します。

訓練内容との整合性の示し方

最後に、これまで整理してきた知識・技能を習得するための訓練内容が、実際にその知識・技能を身につけられる構成になっているかを確認します。訓練のカリキュラムと事業展開等の内容がずれていると、書類全体の一貫性が崩れてしまいます。訓練内容の設計自体に迷う場合は、AI研修のカリキュラム設計のような構成の考え方も参考になります。

  1. 1事業展開等の内容を具体化する
  2. 2必要な知識・技能を洗い出す
  3. 3訓練内容との対応関係を整理する
  4. 4全体の一貫性を読み返して確認する

認められやすい書き方・認められにくい書き方

書類の内容は同じ取り組みを説明していても、書き方次第で審査側の受け取り方が変わります。以下は、実務でよく見られる表現の違いを整理したものです。

観点認められにくい書き方認められやすい書き方
事業展開等の内容「AIを活用して業務効率化を図る」「〇〇業務を生成AIによる下書き作成に置き換え、△△という新サービスを開始する」
必要な知識・技能「AIの使い方を学ぶ」「AI出力の事実確認と業務プロセスへの組み込み方を習得する」
訓練内容との関係訓練内容が一般的なITリテラシー研修のみ事業展開等の内容に対応した実務演習を含む研修
全体の一貫性各項目がそれぞれ独立して書かれている前段の内容が後段の根拠になるように書かれている

この表からも分かる通り、差が出るのは「具体性」と「一貫性」の2点です。特別な言い回しや専門用語が必要なわけではなく、読み手が事業の変化を追える書き方になっているかどうかが問われます。

訓練計画とAI研修・コンサル選定の関係

様式第2号に書いた「新たに必要となる知識・技能」は、そのまま訓練計画の内容と対応している必要があります。つまり、事業展開等実施計画を書く前段階として、自社がどのタイプのAI導入・AI研修を行うのかをある程度固めておくことが、書類作成をスムーズにする近道になります。

どのAI導入の型を選ぶかで記載内容が変わる

AI・DXへの取り組み方には複数の型があり、選ぶ型によって「新たに必要となる知識・技能」の書き方も変わってきます。まず社内のAIリテラシーを底上げしたい場合は研修型が中心になり、戦略設計から実装まで外部の力を借りたい場合はコンサル型の要素が加わります。自社の状況に近い型を先に見極めておくと、様式第2号の記載内容にも一貫性を持たせやすくなります。

研修費用の相場感(比較表)

訓練計画にどの程度の費用感の取り組みを盛り込むかを検討する際の参考として、AI導入・AI研修の型ごとの相場を整理します。数値は2026年時点の複数の公開ソースに基づく参考値であり、実際の見積もりは各社への確認が必要です。

要点相場(2026年時点の参考値)
AI研修型リテラシー底上げ。まず“使える人”を増やすリテラシー研修 15〜40万円/回、実務実装ワークショップ 30〜60万円/部門
AI導入コンサル型戦略〜実装まで専門家が伴走月30〜150万円(継続6〜12ヶ月が目安)
ハイブリッド型研修+定着支援で“やって終わり”を防ぐ内製化・定着伴走 月20〜50万円
ツール導入型まずツールを入れて現場で自走月 数千〜数万円/ユーザー+初期設定費
内製推進型社内の推進者を立てて内製で広げる月 数千〜数万円/ツール+社内推進の工数

訓練にかかる費用だけでなく、受講者の稼働工数(時間×人数)も総コストに含めて考える視点は、様式第2号の妥当性を説明する上でも役立ちます。費用対効果の考え方はAI導入の費用対効果計算法も参考にしてください。

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自社で書くか、専門家に依頼するか

様式第2号は書式自体は難しくありませんが、事業展開等の実態と訓練内容の整合性を説明する部分には一定の経験が求められます。自社の担当者だけで完結させるか、社会保険労務士などの専門家に依頼するかは、事業展開等の複雑さと社内のリソースによって判断が分かれます。

社労士に依頼する場合の相場感の考え方

専門家への依頼を検討する場合、書類作成の代行費用だけでなく、事業展開等の内容整理から一緒に伴走してもらえるかどうかも確認しておくとよいでしょう。書類の体裁だけを整える依頼と、事業の実態を丁寧にヒアリングした上で書類に落とし込む依頼とでは、審査での通りやすさに差が出ることがあります。

自社作成のメリットとリスク

自社で作成する最大のメリットは、事業展開等の実態を最もよく知る担当者が直接言葉にできる点です。一方で、制度上の要件や過去の審査傾向を踏まえた書き方のコツを知らないまま作成すると、内容自体は正しくても表現の具体性が不足し、確認や差し戻しの往復が増えるリスクがあります。自社作成と専門家依頼のどちらを選ぶ場合でも、記載項目ごとに「なぜこの訓練が必要なのか」を説明できる状態にしておくことが共通の準備になります。

提出前の確認事項

書類を提出する前に、様式第2号単体だけでなく、他の提出書類との整合性まで含めて見直す工程を設けることが重要です。

添付書類との整合性チェック

計画届に記載した訓練内容と様式第2号に書いた知識・技能の内容がずれていないか、対象者の情報が他の書類(対象者一覧など)と一致しているかを確認します。書類ごとに担当者が異なる場合、記載内容の食い違いが起きやすいため、最終確認は一人が通しで見る体制にしておくと安全です。

審査で問われやすいポイント

審査では、事業展開等の内容が具体的か、その内容に対して訓練内容が過不足なく対応しているか、そして訓練の効果をどう見込んでいるかが問われやすいポイントです。あらかじめこれらの問いに答えられる状態で書類を仕上げておくと、確認のやり取りが減り、手続き全体がスムーズに進みます。

提出前に見直したい項目
  • 事業展開等の内容が具体的に書けているか
  • 新たに必要な知識・技能が訓練内容と対応しているか
  • 他の提出書類と記載内容が矛盾していないか
  • 抽象的な表現のまま残っている箇所がないか

よくあるつまずきと対処

実務でよく見られるつまずきは、事業展開等の内容を書いた後、必要な知識・技能の項目で急に一般的なAIリテラシーの話に戻ってしまうケースです。事業展開等の具体性が高いほど、必要な知識・技能も具体的に書きやすくなるため、つまずいたときはまず事業展開等の内容の書き方に戻って見直すとよいでしょう。

もう一つのつまずきは、訓練内容を先に決めてしまい、後から事業展開等の説明を無理に合わせようとするケースです。この順番だと整合性が取りづらくなるため、事業展開等の実態を先に言語化し、そこから逆算して訓練内容を設計する順番の方が書類としてまとまりやすくなります。生成AI研修の対象コースや必要書類の全体像は人材開発支援助成金×生成AI研修でも整理していますので、あわせて確認してみてください。

まとめ:様式第2号を通すための要点

事業展開等実施計画(様式第2号)で問われているのは、AI・DXという手段そのものではなく、それによって事業のどこがどう変わり、従業員に何が新しく必要になるのかという一貫したストーリーです。事業展開等の内容、必要な知識・技能、訓練内容の3つを具体的につなげて書くことが、認められやすい書類の共通点になります。

書類作成の前段階として、自社がどのAI導入の型に近いのかを整理しておくと、記載内容の一貫性を保ちやすくなります。制度の詳細な要件は変更されることがあるため、最新情報の確認と合わせて、必要であれば専門家の力も借りながら準備を進めてみてください。