リスキリングに使える公的支援を調べ始めると、助成金・補助金・自治体制度が入り乱れ、「結局うちはどれが使えるのか」で止まりがちです。制度は多く見えますが、企業向けの主軸は実質的に国の1制度(人材開発支援助成金)であり、そこに自治体制度を上乗せ検討する、と整理すると全体像は一気にシンプルになります。

この記事では、2026年時点の制度マップと、自社で使える制度の絞り込み手順を解説します。個別制度の深掘り(申請フロー・実質負担額の計算)はAI研修に使える助成金まとめで扱っているため、まず全体像を掴みたい方はこの記事から読んでください。

制度を調べる前に、助成対象になりうる研修タイプを30秒で判定する →

結論:2026年の制度マップ

区分制度対象支援の概要
国(主軸)人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)全国の雇用保険適用事業主経費の最大75%(中小)。1事業所あたり年間1億円が上限。厚生労働省の資料で「令和4〜8年度の期間限定の助成金として創設」と説明されている制度
人材開発支援助成金(人への投資促進コース)同上デジタル人材育成・定額制訓練(サブスク型eラーニング)等が対象。年間上限2,500万円
国(個人向け)リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業(経済産業省)個人(認定事業者経由)企業への助成ではなく、個人の講座受講・転職支援を支援する制度
自治体(例)DXリスキリング助成金(東京都)都内中小企業等助成対象経費の3/4。1人1研修あたり上限75,000円、1社あたり年間100万円
自治体(例)事業内・事業外スキルアップ助成金(東京都)都内中小企業等社内研修は1人1時間800円、社外研修は経費の1/2(小規模企業者は2/3)。両者合算で1社あたり150万円が上限

自治体制度は東京都以外にも各地にあり(例:堺市の中小企業DXリスキリング補助金など)、名称・条件は地域ごとに異なります。「(都道府県名) リスキリング 助成金」で自社所在地の制度を確認してください。

なお、IT導入補助金やものづくり補助金の名前もリスキリング文脈でよく挙がりますが、これらはツール・設備の導入が主目的の制度であり、研修費用の支援を主軸に探すなら人材開発支援助成金系が本線です。

「助成金」と「補助金」は別物

用語の整理をしておきます。ここを混同すると、探し方も準備の重さも変わります。

助成金補助金
主な所管厚生労働省・労働局経済産業省・自治体など
財源主に雇用保険料主に税金
採択要件を満たせば原則支給審査があり、採択されないことがある
公募通年(年度単位)公募期間が区切られる
準備の重さ計画届と実績報告事業計画書の作成負担が大きい

研修費用の支援を探しているなら、まず助成金です。要件を満たせば原則支給される構造なので、採択率を気にする必要がありません。補助金は設備・ツールの導入とセットで検討する性格の制度です。

人材開発支援助成金は7コースある

「人材開発支援助成金」は単一の制度ではなく、7つのコースの総称です。名前だけで検索すると条件が混ざるため、まずコース構成を押さえてください。

コースAI・デジタル研修での使いどころ
人材育成支援コース10時間以上のOff-JT全般。非正規雇用労働者が対象なら助成率が優遇される
教育訓練休暇等付与コース有給の教育訓練休暇制度(3年間で5日以上)を導入した場合
人への投資促進コースサブスク型eラーニング(定額制訓練)、高度デジタル人材訓練など
事業展開等リスキリング支援コースAI研修の主軸。事業展開・DX化・人材育成計画に基づく訓練
建設労働者認定訓練コース建設業の認定訓練
建設労働者技能実習コース建設業の技能実習
障害者職業能力開発コース障害者の職業能力開発

なお「特別育成訓練コース」は現在の制度には存在しません。人材育成支援コースに再編されているため、古い記事や資料の名称で調べると要件を取り違えます。

AI研修で候補になる3コースの違い

実務で比較するのは、この3つです(助成率のかっこ内は中小企業以外)。

事業展開等リスキリング支援コース人材育成支援コース(人材育成訓練)人への投資促進コース(定額制訓練)
経費助成率75%(60%)正規45%(30%)/非正規70%60%(45%)
賃金要件等を満たす場合正規60%(45%)/非正規85%75%(60%)
賃金助成(1人1時間)1,000円(500円)800円(400円)※満たす場合1,000円(500円)なし
主な要件事業展開・DX化・人材育成計画に基づく訓練10時間以上のOff-JTサブスクリプション型の研修サービス
向くケース新規事業やDXに紐づく研修非正規を含む底上げ、汎用の研修eラーニングを継続契約する場合

選び方の要点は2つです。第一に、受講者に非正規雇用労働者が多いなら人材育成支援コースの優遇(70%)が効きます。第二に、eラーニングを月額で契約するなら定額制訓練が該当しますが、賃金助成が付かない点に注意してください。

教育訓練休暇等付与コースという別枠

これは研修費用ではなく、制度の導入に対する助成です。3年間で5日以上の有給教育訓練休暇制度を導入し、労働者が実際に取得して訓練を受けた場合に、経費助成30万円(賃金要件等を満たす場合36万円)が支給されます。

社員の自発的な学習を後押ししたい場合に、研修費の助成とは別に検討する価値があります。

自社で使える制度の絞り込み手順

制度選びは、次の順に確認すると迷いません。

  1. 1雇用保険適用の確認
  2. 2研修の時間数を確認
  3. 3所在地の自治体制度を確認
  4. 4併用可否を整理

手順1:雇用保険適用事業主か

人材開発支援助成金の大前提です。対象は雇用する従業員の訓練で、経営者本人・個人事業主本人の受講は対象外です(本人の学び直しは個人向け支援の領域になります)。

手順2:研修の時間数はどれくらいか

ここが意外な分かれ目です。国の制度はOff-JTで合計10時間以上が要件である一方、たとえば東京都のDXリスキリング助成金は、1研修あたりの総研修時間数が3時間以上10時間未満の研修が対象です。つまり検討している研修の長さによって、使える制度がほぼ自動的に決まります。 短時間の入門研修と、10時間超の本格研修とでは、申請先が変わると理解してください。

手順3:所在地の自治体制度を確認する

国の制度と自治体制度は、対象経費が重複しない範囲での活用を検討します(同一経費への重複受給は原則できません)。

手順4:年間上限と他の研修計画を整理する

助成金には社あたり・人あたりの年間上限があるため、AI研修単体ではなく年間の教育投資全体で配分を考えると無駄がありません。

併用と重複のルール

「国と自治体、両方使えますか」は最も多い質問です。原則を整理します。

同一経費への重複受給はできない

同じ研修の同じ受講料に対して、国と自治体の両方から助成を受けることは原則できません。厚生労働省のパンフレットにも「同一の事由(同一の訓練受講、経費、賃金等)に係る助成制度を複数利用する場合、併給できない場合があります」と記載されています。

ただし対象経費が重複しなければ、組み合わせは可能です。たとえば国の助成を受けた研修とは別の研修に自治体制度を使う、といった形です。

年間上限は制度ごとに別

  • 事業展開等リスキリング支援コース:1事業所あたり年間1億円(支給申請日基準で4月1日〜翌3月31日)
  • 受講回数:1労働者につき1年度3回まで(定額制サービスは複数コース合わせて3回)
  • 東京都DXリスキリング助成金:1人1研修75,000円、1社あたり年間100万円
  • 東京都スキルアップ助成金:事業内・事業外を合算して1社150万円

AI研修単体ではなく、年間の教育投資全体で配分を考えると無駄がありません。特に「1労働者につき年3回」は、同じ人に複数の研修を受けさせる計画だと先に当たります。

併用の可否は必ず事前に確認する

制度ごとに併給調整のルールが異なるため、複数制度を組み合わせる計画なら、申請前に管轄労働局と自治体の双方に確認してください。事後に判明すると、一方が不支給になります。

自治体制度の探し方

自治体制度は名称も条件も地域ごとにばらばらで、一覧サイトも網羅していないことが多い領域です。確実なのは次の順です。

  1. 「(都道府県名) 中小企業 研修 助成金」で検索——制度名を知らなくても所管課のページに当たります
  2. 都道府県の産業労働局・商工労働部のサイトを直接見る——年度替わりの改定情報が最も早い
  3. 公益財団法人・産業振興機構の事業を確認——東京都の東京しごと財団のように、実務の窓口が外郭団体であることが多い
  4. 市区町村レベルも確認——都道府県だけでなく、市単位の補助制度があります

多くの自治体制度は年度単位で受付期間が区切られ、予算枠に達すると締め切られます。年度初めに情報を取り、逆算しておくのが確実です。

無料AI講座で、実際の手順を動画で見る →

個人向け支援は企業向けと別物

検索すると混ざって出てくるので、線引きを明確にしておきます。

企業向け個人向け
代表例人材開発支援助成金教育訓練給付金、リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業
誰が申請するか事業主本人
誰が受け取るか事業主本人
経営者本人の受講対象外対象になり得る

経営者・個人事業主本人の学び直しは、企業向け助成金の対象外です。ここは制度上明確なので、本人の受講費用を助成金で賄う計画は最初から成立しません。

申請スケジュールの組み方

主軸の事業展開等リスキリング支援コースを例にすると、時間の制約は「訓練開始日の6か月前から1か月前までに提出する職業訓練実施計画届」と「訓練終了日の翌日から2か月以内(厳守)の支給申請」の2つです。逆算すると、研修の実施希望月から少なくとも2か月前には、研修会社の選定と計画の確定を終えている必要があります。GビズIDの取得期間も含めれば、「研修をやろうと決めてから最短でも2〜3か月後の実施」が現実的なスケジュール感です。

なおこのコースは、厚生労働省の資料で「令和4〜8年度の期間限定の助成金として創設」と説明されている制度です。2026年7月時点で延長・終了の公式告知は出ていませんが、取扱いが変わる前提で早めに逆算しておくほうが安全です(賃金要件等による助成率の加算については、令和8年度末までの時限措置と明記されています)。

よくある勘違い

最後に、相談でよく出る誤解を潰しておきます。

「申請すれば必ずもらえる」ではない

計画届を出しても、支給が確定するわけではありません。令和7年度以降、支給・不支給の審査は支給申請後に一括して行われます。厚生労働省のパンフレットにも「計画届を提出したことをもって、助成金が確実に支給されるものではありません」と明記されています。稟議では、不支給時の負担額も併記しておくのが安全です。

「後から申請すればいい」は通らない

すべての制度で事前申請が原則です。研修を実施してから制度を探しても間に合いません。研修選定と助成金確認は並行して進めるのが唯一の正しい順序です。

「実質無料」の提案には注意

訓練機関から訓練経費の返金やキャッシュバック、協賛金などを受け取ると、「事業主が全額負担した」ことにならず経費助成は支給されません。厚生労働省はこうした勧誘を行う訓練機関・コンサルティング会社の存在に注意喚起しており、悪質な場合は不正受給として事業主名の公表や刑事告訴の対象になります(詳細はAI研修に使える助成金【2026年版】)。

制度を絞る前に。自社に必要な研修タイプを30秒で確認する →

この記事の情報源

※本記事は2026年7月時点の公開情報に基づいています。制度の存廃・数値は改定されるため、申請前に必ず一次資料をご確認ください。