AI研修の導入を検討すると、最初に費用の壁に当たります。しかし2026年現在、条件を満たせば研修費用の最大75%が助成される制度があり、しかも2026年の制度改正で対象範囲が大きく広がりました。一方でこの主力制度は、厚生労働省の資料で「令和4〜8年度の期間限定の助成金として創設」と説明されており、恒久的な制度ではありません。

この記事では、AI研修に使える主要な助成金を、対象条件・助成率と上限額・対象経費・実質負担額まで中立の立場で整理します。あわせて、「助成金で実質無料」という勧誘が制度上どう扱われるかも、厚生労働省の記載に沿って解説します。

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結論:AI研修に使える主要制度の一覧

制度運営対象経費助成率主な上限期限・備考
人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)厚生労働省全国の雇用保険適用事業主中小企業 75% / 大企業 60%1人1訓練あたり30万円〜(時間数で変動)/1事業所あたり年間1億円「令和4〜8年度の期間限定」として創設(2026年7月時点で延長・終了の告知なし)
人材開発支援助成金(人材育成支援コース・人材育成訓練)厚生労働省全国の雇用保険適用事業主正規45%(大企業30%)/非正規70%賃金助成 1人1時間800円(大企業400円)10時間以上のOff-JT。パート・アルバイトが対象なら助成率が優遇される
人材開発支援助成金(人への投資促進コース・定額制訓練)厚生労働省全国の雇用保険適用事業主中小企業60% / 大企業45%(賃金要件等の充足で+15%=最大75%/60%)受講者1人1月あたり2万円。年間2,500万円はコース全体の1事業所限度額eラーニングのサブスクリプション型研修が対象。賃金助成はなし
DXリスキリング助成金東京都(東京しごと財団)都内の中小企業等受講費用の3/475,000円/人・研修、1社あたり年間100万円3時間以上10時間未満の研修が対象。オンライン・eラーニング可

東京都のDXリスキリング助成金は、申請受付が令和8年3月1日〜令和9年2月28日、研修開始予定日の1か月前までの申請が必要で、受講者は都内事業所勤務の従業員(代表者・個人事業主本人は対象外)かつ総研修時間の8割以上の受講が条件です。

制度を選ぶ順番

このほか自治体独自の研修助成制度が各地にありますが、助成率・予算規模の面で、まず国の人材開発支援助成金を基準に検討し、所在地の自治体制度を上乗せ候補として調べる順序が効率的です。研修が3時間以上10時間未満と短い場合だけ、国の制度(10時間以上が要件)から外れるため東京都の制度が先に来ます。

最初に押さえるべき共通ルールが一つあります。いずれの制度も、研修開始前の事前申請が原則です。 受講後にさかのぼって申請することはできません。「良い研修を見つけた→申し込んだ→助成金を調べる」の順序では間に合わないため、研修選定と助成金確認は並行して進める必要があります。

人材開発支援助成金でAI研修が対象になる条件

主力となる事業展開等リスキリング支援コースについて、AI研修が対象になる条件を整理します。

2026年3月の改正で対象が広がった

このコースはもともと、新規事業の立ち上げやDX化など「事業展開に伴う訓練」だけが対象でした。2026年(令和8年)3月2日施行の改正で、中長期的な経営戦略に基づく人事・人材育成計画に沿って、従業員がこれから従事する職務に必要な知識・技能を習得させる訓練も対象に追加されました。

つまり「新規事業を始めるわけではないが、営業部門に生成AIを使わせたい」といったケースでも、人材育成計画を整えれば対象になり得る制度になりました。ただし、この追加された類型(以下「人材育成計画型」)には固有の条件が複数あります。

  • 訓練開始日から3年以内に従事する予定の職務であること(「3年以内」がかかるのは計画の年限ではなく、従事予定の時期です)
  • 訓練開始日時点で従事している職務と異なる職務であること(厚生労働省編職業分類の小分類で判定)
  • 中小企業は認定経営革新等支援機関の事前確認が必要
  • 受講者本人からの承諾書の取得が必要
  • 訓練開始日から3年経過日の翌日から2か月以内に実施状況報告書の提出が必要(予定した職務に従事していない場合は不支給・支給決定の取消)
  • 定額制サービスによる訓練は対象外。また管理職研修・マネジメント研修・リーダーシップ研修も対象外(この類型限定の除外)
  • 設備投資加算の対象外

事業展開に伴う訓練として申請できるなら、そちらのほうが要件はシンプルです。

対象になるための主な要件

  • 雇用保険適用事業主であること(法人・個人事業主を問いません。ただし対象は雇用する従業員で、事業主本人の受講は対象外です)
  • 訓練がOff-JT(通常業務と区別された研修)であり、訓練時間数が合計10時間以上であること(eラーニング・通信制は標準学習時間10時間以上または標準学習期間1か月以上)
  • 訓練開始日の6か月前から1か月前までの間に訓練計画届を提出すること(1か月前が締切であると同時に、6か月より前には出せません)
  • 助成対象となる受講回数は1労働者につき1年度3回まで

なお対象になるのは雇用保険の被保険者です。パート・アルバイトが受講者に含まれる場合は加入状況が前提条件になり、また非正規雇用労働者を対象とする訓練では人材育成支援コースの経費助成率が優遇されます(パート・アルバイト中心の職場のAI研修――費用の抑え方で整理しています)。

概論だけの研修は対象外になり得る

「DXとは何か」「生成AIの仕組みと事例紹介」といった、用語解説・概論にとどまる内容だけでは助成対象として認められない場合があります。業務に紐づく実践的なスキル習得(プロンプト作成の実務、部門業務への適用など)を含むカリキュラムかどうかは、研修選定の段階で確認すべきポイントです。これは助成金のためだけでなく、研修効果の観点でも重要な確認事項です。

いくら戻るのか――助成率と上限額

「最大75%」という数字だけで金額を見積もると、ほぼ確実に過大になります。実際の助成額は助成率と上限額の小さいほうで決まるからです。

助成率(企業規模別)

企業規模経費助成賃金助成(1人1時間あたり)設備投資加算
中小企業75%1,000円50%
大企業60%500円

経費助成の上限額(1人1訓練あたり)

実訓練時間数に応じて、次の上限がかかります。

企業規模10時間以上100時間未満100時間以上200時間未満200時間以上
中小企業30万円40万円50万円
中小企業以外20万円25万円30万円

AI研修の多くは10〜30時間程度に収まるため、実務上は「1人あたり30万円(大企業20万円)」が効く上限です。受講料が1人40万円の研修なら、75%の30万円ではなく上限の30万円で頭打ちになり、結果的に助成率は75%になります。1人50万円なら助成は30万円のままで、実質助成率は60%まで下がります。

eラーニングは上限が半分になる

見落とされやすい差がここです。eラーニングおよび通信制による訓練は、経費助成の上限が中小企業15万円・大企業10万円と、通学制の半分に設定されています。通学制・同時双方向型の通信訓練と組み合わせて実施する場合も、この区分が適用されます。

さらに、eラーニング・通信制・定額制サービス・育児休業中訓練は経費助成のみで、賃金助成が付きません。「オンラインで安く済ませる」判断は、助成後の実質負担で見ると必ずしも有利になりません。

賃金助成の対象と上限

賃金助成の対象になるのは、訓練期間中の所定労働時間内の賃金です。所定労働時間外や所定休日(予め別日に振り替えた場合を除く)に実施した訓練は対象外になります。「業務に支障が出ないよう土曜に研修」という運用は、賃金助成を捨てることになります。

限度時間は1人1訓練あたり1,200時間(専門実践教育訓練は1,600時間)です。通常のAI研修で当たる上限ではありません。

1事業所・1労働者あたりの制限

  • 1労働者につき1年度3回まで(定額制サービスによる訓練は、人への投資促進コースの定額訓練・自発的職業能力開発訓練と両コース合わせて3回まで)
  • 1事業所が1年度に受給できる助成額は1億円まで(支給申請日を基準に4月1日から翌年3月31日まで)

何が経費として認められるのか

「研修に関わる費用」がすべて対象になるわけではありません。外注か内製かで対象範囲が変わります。

事業外訓練(研修会社に外注する場合)

対象は入学料・受講料・教科書代等で、あらかじめ受講案内等で定めているものに限られます。定額制サービスの場合は、基本料金だけでなく初期設定費用やアカウント料金も対象になりますが、オプション料金は対象外です。

なお、次の訓練の受講料等は対象外です。官庁が主催する訓練、都道府県・独立行政法人高齢障害求職者雇用支援機構の職業能力開発施設が実施する訓練、認定訓練助成事業費補助金を受けている認定職業訓練、人材育成支援コースの助成を受ける事業主団体等が主催する訓練。

事業内訓練(自社に講師を呼ぶ場合)

対象は次の5種類です。

経費上限・条件
部外講師への謝金・手当実訓練時間数1時間あたり3万円(消費税込)。謝金以外の日当は社内の支出規定がある場合のみ1日3千円まで
部外講師の旅費国内招へい5万円、海外招へい15万円。鉄道賃(グリーン料金除く)・航空賃・宿泊費(1日5千円まで)等
施設・設備の借上費助成対象コースのみに使用したことが確認できるもの
教科書・教材の購入費頒布目的で発行される出版物のみ
訓練コースの開発費大学・高専・専修学校等に委託して開発した場合

このほか消費税、職業能力検定、キャリアコンサルティング、資格・試験の受験料(ITスキル標準レベル2〜4、DX推進スキル標準レベル2〜4など)も対象になります。受験料は1つの職業訓練実施計画届につき1回まで、かつ単独では申請できません。

対象にならない経費

  • 繰り返し活用できる教材(PCソフトウェア、学習ビデオなど)
  • 職業訓練以外の生産ラインや就労の場で汎用的に使用するもの(パソコン、周辺機器等)
  • 「経営指導料」「経営協力料」等のコンサルタント料に相当するもの
  • 事業内訓練における、eラーニング・通信制に係る経費
  • 受講生の旅費・宿泊費
  • 申請事業主と密接な関係にある者・事業主・教育訓練機関への支払い(代表者、その3親等以内の親族、親会社・子会社、議決権の過半数を保有する関係などが該当します)

最後の項目は見落とされがちです。グループ会社や役員の親族が経営する研修会社に発注すると、経費助成の対象外になります。

「助成金で実質無料」を謳う勧誘への注意

厚生労働省はパンフレットの中で、次のように明記しています。

助成金を活用して従業員に訓練を実質無料で受けさせることができるなどと謳い、本来受けることができない助成金・訓練の提案・勧誘を行う訓練機関やコンサルティング会社などが存在しているという情報が寄せられています。

制度の建て付け上、これは「グレー」ではなく明確に不支給の対象です。

返金・キャッシュバックを受けると全額対象外

経費助成の前提は「訓練等に要した経費を支給申請までに申請事業主がすべて負担している」ことです。したがって、教育訓練機関等から申請事業主の負担額が実質的に減額される金銭の支払い(訓練経費の返金を含む)を受けた場合、または受ける予定がある場合、全額が支給対象外になります。

パンフレットは具体的に次のケースを挙げています。

  • 教育訓練機関等からの入金額と助成金支給額の合計が訓練経費と同額になる場合
  • 訓練成果のレビューや受講インタビューなど、広告宣伝業務の対価として金銭を受け取った場合
  • 「研修の実施に際して費用負担がかからない」等の負担軽減に係る提案を受け、提案の前後にかかわらず金銭を受け取った場合(営業協力費・協賛金など名目を問わない

助成金の有無で受講料に差を付けると差額が対象外

同一の訓練内容にもかかわらず、助成金の有無だけで受講料に差を付けている場合、その差額は支給対象になりません。パンフレットの例では、助成金を申請する事業主の受講料30万円/申請しない事業主の受講料10万円という価格設定の場合、差額の20万円分は支給対象外とされています。

この点は運用でも強化されており、令和8年5月14日以降の支給申請では「受講料等の価格設定に関する疎明書」(様式第28号)の提出が必須化されました。

不正受給の扱い

返金等により実際には全額を負担していない場合、支給要件を満たしていないため助成金を受給することはできません。場合によっては不正受給を行った事業主として事業主名や代表者名が公表され、悪質な場合は捜査機関への刑事告訴が行われる、と明記されています。

「助成金があるから実質タダです」という提案を受けたら、その場で契約せず、条件を書面で確認してください。 提案そのものが、発注側を不支給や公表のリスクにさらしている可能性があります。

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設備投資加算――中小企業だけの上乗せ

あまり知られていませんが、事業展開等リスキリング支援コースには、通常分とは別に申請できる加算があります。

加算の条件

対象は中小企業事業主のみで、次を満たす必要があります。

  • 賃金要件(訓練終了日の翌日から1年以内に、毎月決まって支払われる賃金を5%以上増加)または資格等手当要件(就業規則等に規定したうえで手当を支払い、賃金を3%以上増加)のいずれかを満たすこと
  • 訓練が事業展開やDX化・GX化に係るものであること(人事・人材育成計画に基づく訓練は対象外
  • 訓練の実施方法が通学制または同時双方向型であること
  • 実技の訓練等で機器・設備等を実際に使用すること(予習・復習に限って使用する場合は該当しません)
  • 訓練終了後、支給申請日までに事業展開促進機器等を新たに導入すること(導入費用10万円以上)

加算率は導入費用の50%、限度額は支給対象労働者1人につき15万円、10人以上の場合は150万円です。

対象にならない機器

ここが実務上の落とし穴です。パソコン・タブレット端末・スマートフォンおよびその周辺機器は対象外と明記されています。AI研修に合わせてPCを買い替えても加算されません。

このほか、汎用事務機器やネットワーク環境の導入・更新、経営コンサルタント料・相談料・顧問料等の無形商材、特殊用途以外の自動車、空調・照明の更新、テレワーク用通信機器なども対象外です。逆に、データベース構築・システム導入・専用アプリ開発に係る経費は対象になり得ます。

なお導入した機器は、導入日の翌日から1年を経過するまで処分できません。また設備投資実施計画を提出する場合、本社一括申請は行えません。

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申請から受給までの4ステップ

事業展開等リスキリング支援コースの大まかな流れは次の通りです。

  1. 計画作成・計画届の提出(訓練開始日の6か月前〜1か月前)——事業展開の計画、または人事・人材育成計画を整理し、訓練計画届を労働局に提出します。ここが最大の関門で、期限を過ぎると助成対象外になります。必要書類とつまずきやすい記載事項は人材開発支援助成金の計画届の書き方にまとめています。
  2. 研修の実施——計画に沿って研修を実施します。出席記録・カリキュラム・経費の証憑を保管します。
  3. 支給申請訓練終了日の翌日から2か月以内)——期限は入口と出口の2か所にあり、どちらか一方でも徒過すると不支給です。
  4. 受給——審査を経て助成金が支給されます。令和7年度以降、支給・不支給の審査は支給申請後に一括して行われるため、計画届が受理されても受給が確定するわけではありません

申請から入金までは期間が空くため、研修費用はいったん全額を立て替える資金繰りを想定しておく必要があります。

実質負担額シミュレーション

中小企業がAI研修を実施した場合の実質負担額を、Fitsel AIの相場データベースの価格レンジで試算します(経費助成75%・上限内の場合)。

研修タイプ費用相場経費助成(75%)実質負担額
リテラシー研修15〜40万円/回11.3〜30万円3.8〜10万円
実務実装ワークショップ30〜60万円/部門22.5〜45万円7.5〜15万円
内製化・定着伴走月20〜50万円月15〜37.5万円月5〜12.5万円

さらに、研修時間中の賃金助成(1人1時間あたり1,000円・中小企業/大企業は500円)が経費助成とは別に受けられます。たとえば10時間の研修を10名で実施すれば、賃金助成だけで10万円が加算される計算です。

上限に当たるケース

上の試算は助成率だけを当てはめたものです。実際には前述の上限が効きます。

ケース(中小企業・20時間の通学制研修)助成率75%なら上限適用後実質助成率
受講料 1人20万円15万円15万円75%
受講料 1人40万円30万円30万円75%
受講料 1人60万円45万円30万円50%
受講料 1人40万円(eラーニング)30万円15万円37.5%

1人あたりの単価が上がるほど、実質助成率は下がります。 高額な少人数研修より、上限内に収まる単価で人数を確保するほうが助成の効率は良くなります。

助成金対象にならない研修・通らないケースの特徴

助成金ありきで研修を選ぶと失敗しやすいため、対象外になりやすいパターンも挙げておきます。

  • 事後申請——研修開始後・受講後の申請は原則認められません
  • 自社の機器・ツールの操作説明——「自社で用いる機器・端末等の操作説明」は制度上の対象外です。生成AIツールの社内導入説明会のような内容はここに当たり得るため、「AI研修なら何でも対象」という理解は危険です
  • 意識改革・モラール向上にとどまる研修、および法令で事業主に実施が義務付けられた講習
  • 概論・教養にとどまる内容——業務との接続が説明できないカリキュラム
  • 専らビデオを視聴するだけの講座、講師が専門的知識・技能を有しない訓練
  • OJTのみの訓練——実務を通じた指導だけでは対象外です(Off-JTとの組み合わせは可)。営業同行など通常の生産活動と区別できないものも不支給
  • 計画と実態の不一致——届け出た計画と異なる内容・時間で実施した場合
  • 要件を満たさない短時間研修——国の制度は合計10時間以上が必要です(逆に、3時間以上10時間未満の短い研修は東京都のDXリスキリング助成金の対象範囲であり、研修の長さによって使える制度が変わります)

なお、助成金の申請可否や受給額の確定判断は、最終的には管轄の労働局・運営団体、または社会保険労務士など専門家への確認をおすすめします。

そして助成金より前に決めるべきなのは、自社に必要な研修がどの型なのかです。研修が効く段階ではない企業が助成金を理由に研修を実施すると、AI研修は意味ない?効果が出ない研修の共通点で整理した失敗パターンをたどることになります。

この記事の情報源

※本記事は2026年7月時点の公開情報に基づいています。助成率・上限額・申請要件は改定される場合があるため、申請前に必ず一次資料をご確認ください。